能力と素質 ~人材育成の指針~
皆様こんにちは。船井総合研究所の井手と申します。
ある支援先の部長から、人材育成についての相談を受けました。
同じことを何度言ってもできない、結果も出せないという営業社員がいて、どうすればいいのか困っているといいます。
本人なりに頑張ってはいるようなのですが、まったく変化も成長もしないことに、指導している部長のほうが疲れてきているのだそうです。
このような悩みを抱える管理職は、非常に多いと感じています。
100%うまくいく人材育成法などないことは、みんなわかっています。でも、だからこそ、確固たる「人材育成の指針」をもっておくことは、人材育成の精度を高めるため、そして管理職のモチベーションを維持するためにも、大事なことです。
そこで、人材育成の指針について、改めて私なりに考えてみました。
人が成長するためには、「能力」と「素質」の両方が必要です。
能力とは、「物事を遂行する力。知識、スキル・技術の有無と程度」のこと。
素質とは、「その物事に向いている性質、能力を発揮するもととなる性質」のことと定義します。
ここで重要なのは、能力は他者が指導して高めさせることもできますが、素質は自らが経験を通じて学び、身につけていくしかないということ。
つまり、素質のレベルアップに関しては、他者は「気づき」を与えることしかできないのです。
たとえば、リフォーム営業に必要な能力と素質を思いつくままに書き出すと…
能力: 諸々の知識(建築、商品、積算、不動産、法律等)、ビジネスマナー、ヒアリング力、プランニング力、プレゼンテーション力、クロージング力 etc.
素質: 目標達成意識、数字意識、スピード感、細やかさ、察知力(相手や周囲が求めていることがわかる)、誠実さ etc.
こんな感じでしょうか。
このうち、諸々の知識やヒアリング力等の能力は、研修や実地指導などを通じて、ある程度は高めさせることができるでしょう。
しかし、目標達成意識や細やかさなどの素質は、他者はそれが大事なことだと教えたり、もっと高めなさいと助言することはできても、あとは本人次第です。
ひとことアドバイスするだけで改善して身につける人もいれば、どれだけ厳しく言っても、何回言っても、変わらない人もいます。
管理職としては、「もう知らない。好きにしなさい」と投げ出したくなるときもあるのですが、そうしたところで状況は変わりません。
ですから、とにかく言い続けるしかないし、言い続けるべきなのです。
そして、そうはいってもあとは本人次第なのですから、管理職が無力感に苛まれたり、すべてを背負い込んだりする必要はありません。
管理職がもつべき「自責」のスタンスとは、何か問題が起きたとき、その原因や責任が自分自身にあると考えて行動する姿勢のことであり、自分を責めることではないのです。
いずれにせよ、このように、人の成長を能力と素質に分けて考えると、「力相応に新しい経験や挑戦をさせる」や「大事なことは何度も言い続ける」など、人材育成の指針が整理できるのではないでしょうか。